コラム日和
身近な草木 和ハーブ入門
イブキジャコウソウ 薄桃色の花のじゅうたん

一般的に「タイム」といえば西洋のタチジャコウソウを指し、西洋ハーブの代表格としてオレガノやバジルなどと同様にイタリア料理やフランス料理の香り付けに用いられます。しかし、他にもタイムと呼ばれる植物があります。
日本に野生する唯一のタイム種であるイブキジャコウソウ(伊吹麝香草)はシソ科の和ハーブです。地表面をはうように伸び、背丈がせいぜい15cmほどですので一見草にしか見えませんが、実は樹木の仲間です。
名の由来となった、滋賀県と岐阜県にまたがる伊吹山麓の集落では、薬草茶やお風呂など古くから暮らしの中で利用されてきました。日本にも古くからタイム種があり、かつ利用されてきたことはちょっと意外かもしれませんね。
初夏ごろに開花期を迎えると、辺り一面が薄桃色で、すがすがしい香りのじゅうたんになります。花や葉、茎を手で軽くなでるだけでぱっと香りが漂うので、ここに寝そべったら気持ち良く眠れるだろうなぁと思います。別名「百里香(ひゃくりこう)」も、その香りが100里(約393km)先まで届くイメージから呼ばれたようです。
この特徴的な香りには抗菌・抗真菌作用が期待できます。風邪気味や花粉症など、なんとなく喉や鼻の調子が振るわないときには、イブキジャコウソウのホットティーを入れてみましょう。蒸気とともに香りを吸い込みながらゆっくり飲むと、不快な症状を和らげてくれます。
湿気に弱く、雨が続くと根腐れを起こしやすいので、庭や畑などで育てる際は水はけが良く、できるだけ日がよく当たり風の通る場所を選びましょう。
地面にしゃがんで静かに見ていると、ミツバチたちがせっせと花の間を飛び交う様子に癒やされます。
植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴
引用元「JA広報通信」