ハマナス 和のローズ、和のローズヒップ

ハマナスは海岸沿いの砂地に群落する落葉低木で、5、6月ごろになると鮮やかなピンク色の花を咲かせます。英名はJapanese rose、日本原産の野ばらです。このハマナスの花は皇后雅子さまのお印(身の回りのものに付けるシンボルマーク)でもあり、見た目の美しさとともに甘い香りが魅力ですが、朝に咲いたら次の日の夕方には散ってしまう儚(はかな)い花でもあります。
見た目が華やかなばかりでなく、乾燥や日光に強い特徴もあるため、防風林や街路樹にも向いています。枝や茎には細かいとげがあることから、アイヌ民族は「病魔を防ぐ植物」として家の戸口に立てかけたそうです。現在も北海道の道花、青森市の市花などに指定されており、身近な風景を彩る「和のローズ」といえます。名の由来は「浜梨(はまなし)」で、晩夏に実る赤銅色の丸い果実が、梨やリンゴのように食べられることからくるようです。
江戸時代末期に書かれた『胡地養生考』には、ハマナスの興味深いエピソードが記録されています。冬の蝦夷地では生の植物類が摂取できず、ビタミンC不足から秋田藩士が続々と壊血病を発病してしまいました。そのとき、彼らに花のお茶を朝夕飲むように教えたのがアイヌ民族で、その知恵が多くの命を救いました。実際にハマナスのビタミンCは、乾燥や加熱にも壊れにくい特殊な構造を持っています。またアイヌ民族の間では果実も貴重な保存食で、ドライトマトのように乾燥させて鹿肉と煮込んで食したそうです。
花の後には一般にローズヒップと呼ばれる果実がなり、こちらもビタミンCを豊富に含んでいますので、疲労回復や美容や健康の維持にぴったりです。深い香りが魅力の花弁は蒸留水やローズソルトに、花や果実はジャムやコーディアル、デザートの風味付けや、和ハーブティーなどでいただくのがお薦めです。
植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴
引用元「JA広報通信」