タチバナ(橘) 永遠の香りを宿す「日本の忘れ物」
「タチバナ」と聞いてどんな姿を思い浮かべるでしょうか?
「名字が橘です」という方、「家紋が橘紋です」という方、その漢字表記から何となく「柑橘(かんきつ)」だとは思うけれど、実際見たことがないという方も多いようです。しかし日本固有の柑橘原種がタチバナ(学名:Citrus tachibana)であることは案外知られていません。500円硬貨のデザインモチーフにもなっていて、実は私たちのごく身近に寄り添っているのです。
果実は直径3cm程度で、温州ミカンをそのままぎゅっと小さくしたような形です。純白の花が初夏に咲き、うっとりするような芳香を放ちます。枝葉をちぎると青みがかった爽やかな香りが立ちます。果実には種子が多く酸味が強いため、あまり生食向きではないといわれるものの酸味・苦味・香りのバランスが魅力な希少な食材として、プロの料理人たちをひそかにうならせています。
タチバナに関する古い記述として『古事記』の中に、病に伏せた垂仁天皇の忠臣であった田道間守(たじまもり)が「不老不死の霊薬」として常世(とこよ)の国からタチバナを持ち帰った話が見られます。こうしたエピソードの由来と考えられるのが「非時香菓(ときじくのかくのこのみ=永遠に香る果実)」と呼ばれる香りや、常緑樹であること、鈴なりに花や果実を付けて落ちにくい様子が不老長寿・子孫繁栄の象徴となって重宝されてきたことなどが挙げられます。
果皮や葉にはノビレチンやタンゲレチンなど抗酸化作用のあるポリフェノール類が豊富に含まれており、がん予防などの機能性からも近年再注目されています。現在では全国的に自生地が激減しており、準絶滅危惧種に該当しているタチバナですが、将来にわたって大切に守り抜きたい和ハーブです。
植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴
引用元「JA広報通信」