「山の芋」 ほくほくとしたムカゴは秋の味
「山の芋(ヤマノイモ)」は昔からウナギと共に滋養強壮の代名詞のような植物で、「山の芋がウナギになる」ということわざや俗話もあるほどです。春は若葉、秋はムカゴ(球芽)、冬は根と、一年を通じて食材になりますが、秋になり葉が黄色くなって初めて、はっきりとその存在に気が付くように思います。
先がとがった細長いハート形の葉は対生(葉が2枚向かい合って生える)し、他のものに巻き付きながら成長していきます。山奥にしかないと思われがちですが、意外と市街地の空き地などにも生えていて、つるがフェンスに巻き付いています。有毒で同じヤマイモ科のオニドコロと一見似ていますが、オニドコロは葉が丸くて互生(葉が互い違いに生える)し、ムカゴを作らないので見分けがつきます。ちなみにムカゴは果実ではなく、葉の付け根に出る丸みを帯びた芽のことで、無性生殖でクローンを作る役割があります。
メインとなる可食部は多肉質の根で、掘り起こすと大きいものは長さが1mにもなります。とろみはナガイモよりも強いのですが、野生種は細く曲がり、形もなかなかそろいません。その点、落葉する頃のムカゴ集めは、子どももできる野外活動です。つるに鈴なり状態のことも多く、指先で収穫しやすいですが、逆にぽろぽろと落ちやすいので、持ってきた大きめの籠や、逆さにした傘の中につるごとムカゴを振り落とします。
時間を置くとうまみを増すので秋から冬の保存食にぴったり。新米と一緒に炊き込んだムカゴおむすびがお薦めです。でも食いしん坊の私はそこまで待てません。収穫して家へ帰り、キッチンに立って今日のことを思い返しながら、油でさっと素揚げします。お気に入りの塩を振りアツアツのうちに食べれば、散策の疲れも吹き飛ぶおいしさです。
植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴
引用元「JA広報通信」