コラム日和
身近な草木 和ハーブ入門
ヤマブドウ 深山の宝石、籠編み細工にも
ヤマブドウの古い名前は、「エビカズラ」といいます。和の色名で「葡萄(えび)色」ともいいますが、これらはヤマブドウの果実や紅葉した葉の色になぞらえたものです。その実りを喜ぶのは人間の他、クマや猿たちも同じです。山村の貴重なおやつで古来、滋養強壮や鉄分補給にもなりました。未熟なものは赤く酸味が強いですが、徐々に黒紫色に熟して甘くなります。
現在、ヤマブドウの果汁を絞った原液やジュース、ジャム、醸造発酵させたワインなどが少数ながら商品化されており、ネットショップや道の駅などで手に入れることもできます。原液は水や炭酸水で割ったり、蜂蜜を少し溶かして温めて飲むと、疲れた体にするりと染み渡って極上の一杯となります。またダイコンやキャベツなどを食べやすい大きさに刻んで軽く塩もみし、袋に入れてヤマブドウ液を適量注いで一晩漬けておくと、彩りもきれいな簡単ヤマブドウピクルスが出来上がります。
その他、葉やつるも山村の暮らしで活用されてきました。大きな葉は皿代わりに、また乾燥させてお茶にもなります。そして丈夫でしなやかなつるは籠に。山で採取してから内・外皮を剝いで乾燥させ、あらためて水に漬けて柔らかくし、太さをそろえてカットしたら、型に沿わせて編み上げていきます。以前、月山(山形県)の山小屋の主人に、「(出羽周辺で)つるを採取するのは夏の土用の1週間のみ」と教えていただきました。使い込むうちに黒くつやが出る上質なヤマブドウの籠バッグは静かな人気がありますが、天然素材は有限であり、採取から仕上げまでの手仕事を受け継ぐ方は全国的に減っています。
植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴
引用元「JA広報通信」