セキショウ 和のハーバルサウナ
仏教伝来とともに広がりを見せてきた日本のお風呂文化ですが、現代のように肩まで湯につかる温浴が一般に普及してきたのは江戸時代中期以降といわれています。植物の茎葉や枝などを直接燃やしたり蒸したりして、高温の蒸気を立たせる「ハーバルサウナ形式」が日本の薬草風呂のルーツ。そして古来、用いられてきたのが、実はセキショウ(石菖)です。
清らかな谷川や水辺に群生する常緑多年草で、名の由来は「石や岩に張り付く菖蒲(ショウブ)」から。「菖蒲」の文字からアヤメの彩り華やかな花を想像するかもしれませんが、アヤメとセキショウは別種です。
春から初夏、うららかなハイキング日和の水辺で、淡黄色の小さな花を探してみましょう。とても地味な花姿なので観察には虫眼鏡が必須です。そしてよく発達した根茎を横に出して水中の岩に絡み付かせ、ひげ根を伸ばして群生しています。
知名度はそれほどありませんが、濃緑色の細い葉や根茎部をちぎったり、高温で蒸したりすると、青く爽やかな芳香が広がります。抗真菌性があり、冷えや関節痛などに向くことから重宝され、現在も大分県の鉄輪温泉ではセキショウの蒸し風呂を堪能できる温浴施設もあります。
旧暦5月5日の端午の節句には、「尚武」や「勝負」と掛けて「ショウブ湯」につかる風習があり、セキショウが用いられてきましたが、その後に中国由来の庭草であるショウブに取って代わられたようです。ちなみに、推古天皇の時代、この季節には薬狩りをしていた記録が残っています。私たちも、いにしえの人々に倣ってセキショウを浴剤にしたり、ヨモギと一緒に束ねて和ハーブボールのように蒸して温めたりしながら使うのも良いでしょう。心身を清める香りとその薬効は、春から夏の薬湯にぴったりです。
植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴
引用元「JA広報通信」