ヨモギ 日本の暮らしに溶け込む万能和ハーブ
この時期、足元で春光を浴びて一斉に芽吹いている草たちの姿が目に入ってきます。その中で、新緑の葉を1枚ちぎって、草餅のようななじみある香りがしてきたら、それはヨモギかもしれません。「よく燃える(萌〈も〉える)」「四方へ伸びる」など、その生命力が呼び名になった「ヨモギ(蓬)」は、日本の北から南まで、暮らしの身近に寄り添ってきた「和ハーブ」(※)です。
平安文学の『枕草子』では、牛車の車輪に踏まれたヨモギの香りが漂ってくることは趣がある、と描写されています。清少納言にとって普段気にも留めていなかった身近な野草の存在に、ハッとした瞬間があったのでしょう。一方で『源氏物語』の蓬生(よもぎう)の帖(じょう)では、荒れ果てた屋敷にヨモギが生命力の限りに生い茂り、住む人来し人の気配がないわびしさとの対比が浮かび上がってくるようです。平安と令和、時代を飛び超えて同じヨモギに心動かされるのもまた、いとをかし(=趣がある)と感じます。
さてお話を現代に戻しましょう。春のヨモギは、あくが少なく香りも柔らかで指先で簡単に摘める若葉がおいしいところです。そのまま天ぷらでいただく他にも、塩ゆでした後に水でさらしてクルミとあえたり、刻んで餅粉と混ぜて新緑色のお団子、ジェノベーゼ風のパスタペーストにしたりと、調理方法も味もさまざまに楽しめます。食物繊維や鉄分、ビタミン類なども豊富です。香りとともに春の旬を取り込んでみたいですね。
生葉をもんだ汁は、小さな傷口の止血や虫刺され時のかゆみ止めにもなる優れものです。茎葉を乾燥させておけば、お茶にお風呂にと一年中手軽に利用できます。
※和ハーブとは、江戸時代以前より日本人の暮らしと健康を支えてきた有用植物のこと。在来種の他、外来種も含みます(一般社団法人和ハーブ協会の定義による)。
植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴
引用元「JA広報通信」